98年、最初の独り言

 今年の一発目、力一杯ネガティブで暗い話。個人的な仕事の関係で電話や電子メールのやりとりを何回かしたことがある、Sさんという女性がいる。偶然、友人がSさんとパーティーで知り合ったそうで、彼女から聞いた話をしてくれた。

 私は実際にお会いしたことがなく全く知らなかったが、Sさんはバスケで痛めた足の手術をアメリカで受けて失敗、杖なしでは歩けないそうだ。何とか自力で歩けるようになった時点で一度、日本に帰国したが、もう決して日本には住めないと悟ってアメリカに戻って来たという。

 駅にエレベータがないのは構わないが、苦労して階段を昇り下りしていると「手伝ってあげる」とおやじが寄ってきて痴漢行為をしていく。「やめてくれ」と声を出しても、見て見ぬ振りは日本人のお家芸。当然、誰も知らんふり。

 電車や街で出会った全く見知らぬ人がいきなり寄ってきて「あなたがそんな体になったのは、前世での行いが悪かったから・・・」というようなことを言う。信じられないだろうが、2日に一度は言われるのだそうだ。また、彼女は結構おしゃれらしいが、「身障者のくせして、なに格好つけてるんだ」と、ガキから聞こえよがしにしょっちゅう言われる。

 市役所に仕事の件で問い合わせに行った際、職員に「ソープランドで働けばいいじゃないか」と言われた。このような暴言を受けるのは身障者にとって当然であることを、後から知ったそうだ。全てのバスに車椅子用のリフトが付いているアメリカとは、社会基盤の不便さも格段に違うだろう。バスのリフトは、ロスでもニューヨークでも付いている。恐らく全米のバスに、付いているだろう。

 私は物心ついた時から、日本も日本人も大嫌いだったんだよ。そうじゃなかったら、今頃こんなところにいるものか。日本にいた頃は、陰湿で暗い日本人の馬鹿さ加減が許せず、誰の目にも明らかなアメリカ人の単純馬鹿の方がずっと許せる気がしていた。

 アメリカの良いところは、放っておいても皆がこぞって過剰なまでに日本で報道してくれる。私の役目は、実際はかなり違うのだと知らせること・・・。どこの世界にも嫌なヤツはたくさんいる。どこの国にも、良い点と悪い点がある。実際に住んでると、目の前の不満ばかりがやたらと大きく見えてくる。

 最近ちょっと、隣の芝生を青いと思い過ぎていたようだ。


 友人宅はアッパー・ウェスト。うちはアッパー・イースト。帰りは間にあるセントラル・パークを抜けるのが一番近くて早い。

 ここ数日のニューヨークは、まるで梅雨時の日本のよう。毎日、雨もしくは霧で物凄い湿気。オフィスの天井から水が垂れてくるほどだ。気温もこの時期にしては異常に高い。

 そんな霧がかった夜のセントラル・パーク。何度も通っているハズの道なのに、何故か迷ってしまった。こんな真冬の夜中に、汗ばみながらさんざん歩く羽目に陥った。道の横には普段は通らない大きな池が広がり、霞の向こうで摩天楼の明かりがどんよりと反射している。真冬に見る「真夏の夜の夢」・・・。


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