97.6.29の独り言

 突然ですが、私はAT&TのCMが嫌いです。以前はアメリカの日本語放送の合間でも、通常のアメリカのテレビ番組の合間に流している、ホイットニー・ヒューストンなどを使ったイメージ広告に字幕をつけて流していて、それは格好いいと思っていました。嫌いなのは、最近、日本語放送の合間に流れている、ドラマ仕立ての日本人だけに向けたCMです。

 と言っても、AT&Tが同じCMを日本で放送しているとはあまり思えないので、簡単にご説明します。

 その1。これは同僚に「あのコマーシャル見ました? あんなヤツ、いる訳ないですよね」と言われて気付いたのですが、駐在員の奥さん(にしか見えない)が台所で料理を作りながら、わざわざ日本に電話して「あ、お母さん? 肉じゃがの味付けなんだけど・・・」としゃべっています。どこのどいつが、肉じゃがの味付け聞くためにわざわざ国際電話かけるんだ? バカじゃないだろうか!

 その2。日本でクラス会が開かれている。登場人物は20代半ばに見える。アメリカに単身駐在している青年が時差を時計で確認して、クラス会の会場の携帯電話(PHSか?)に国際電話をかけます。会場の携帯電話の持ち主はノートパソコンも持っており、「Eメール見ろよ」と言われて駐在の青年が電話をかけながらEメールを見ると(つまり最低、2回線は持ってるんでしょう。携帯と普通回線かもしれません。誰がわざわざ携帯で国際電話かけるんだ?)、クラス会の会場で撮ったデジカメの画像が送られてきています。青年も「ちょっと待って」と言い、自分で自分の写真をデジカメで撮り、すかさず送り返します。会場ではその写真を見て「○×くんも元気そうね」と、絶対に実生活で言う人間がいないような気色悪い台詞。さらに電話は先生にまわり「一人で大変そうだが頑張れよ。きっと、いい経験になるから」と初老の先生が語りかけます。あぁ〜、もう、このシラジラしさが我慢できない!気持ち悪い!

 その3。郊外の広い家に住む駐在員家族。朝、お母さんが「気分が悪いの」と言って寝ていると、お父さんが「心配するな」と言って、会社に「今日、家で仕事します」と電話をかけます。で、家はなんで一日でこんなに・・・というくらい、散らかって汚れており、お父さんはファックスから何から全て揃った自宅で、常にコードレスの受話器を肩にはさみ、掃除機かけたり洗濯しながら仕事をします。夕方には「もうすっかりよくなったから晩ご飯、私が作るわね〜」と言って、お母さんが軽やかに階段を駈け降りて来ます。

 最後は家族そろって晩ご飯。お決まりで、お母さんは日本の実家に「・・・そうなの〜、でも、パパが全部やってくれて助かっちゃった」と嬉しそうに電話しています。一から十まで、全て「あり得ない〜!」と叫びたくなるシラジラしさ。

 このCMたちから私が受ける不快感は一体、何なんでしょう? 一環した非現実的光景、わざとらしさ、嘘のような仲の良い家族、くさい台詞。

 まず、私は友達みたいな家族というのが気持ち悪い。いい年した子供が、何かというといちいち親と電話で話す、という状況が信じられない。

 しかし、もっと私が嫌なのは、全編に流れる甘ったれたステレオタイプの駐在員家族的な雰囲気かもしれません。後進国は言うに及ばず、アメリカにおいても日本の駐在員は、現地の人間の平均給料をはるかに越える額をもらっている、お金持ちです。電話代なんて、いくらかかったってヘでもないわ、金ならあり余ってる、奥さんは優雅に有閑マダム。単身駐在員なんて、もっと気楽で分不相応なお金持ち。CMの中の彼らは、ニューヨークの物価が高いとも思わず、異国で一から自分独りで生活を始める苦労も知らず、あぁ〜楽しかった、と言って帰ってゆくのかもしれません。実際に、CMほど極端な駐在員がいるかどうか知りませんが。

 もちろん、AT&Tは私のような現地人化した貧乏日本人なんか、客だと思っていないのでしょう。さらに、私の感情には、恵まれた駐在員に対するひがみも多分に入っています。ロスもニューヨークもいろいろな日本人が多く住んでいますが、私の知る限り駐在員とそれ以外の日本人に接点があまりないのも、この辺の感情のずれでしょうか。

 結局、自分でもうまく説明できない、この苛立ちや不快感は何なのか。もしかすると、自分はCMに出てくる駐在員には死んでもなれないという、日本企業の歴然とした男女差別に対する怒りが根底にあるのかもしれません。

 しかし、AT&Tも、あんなニッチ・マーケット向けのCMに高い金遣うくらいなら、もっと安くせんかい! どうせ、似たような韓国語版とか中国語版とか、それぞれ別に作ってんだろう。死んでもAT&Tなんかと契約するもんか!
(注)アメリカでは、通常、長距離電話会社を自分で選んで契約するようになっており、電話回線をひくことで近距離電話会社とは契約したことになりますが、さらにどこかの長距離電話会社と契約しないと直通の長距離電話はかけられません。


 ふむ、たまには日本の政治家もやるもんですね。先日の橋本首相の米国債関連発言と米株下落には大喝采。大体、日本の政治家は米にへいこら、力の弱いものにはでかいツラして、ロクに交渉もできないんだから。橋本首相自身はあまり好きではないが、今回だけは拍手拍手"(^O^)"。


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