97.6.2の独り言

 一週間ほど前、やっとニューヨークにも春が訪れたかと感じさせる、暖かく湿り気のある週末の夜でした。私はいつものように、お気に入りのテープなどを聴きながら「やっと春だぁ〜」と気分よく鍛えておりました。(ニューヨークはジムが高いので、思わず自宅でダンベル買って、鍛えるヤツです)・・・と、ふと視界の隅を横切るモノがあります。

 「ん?」・・・「う・・・<絶句>」。それは、なんと過去に見た中でも最大級の8センチくらいはありそうなゴキブリだったのです。固まる私を後目に、敵は余裕でゆっくりと歩いてゆきます。そして本棚の前でたたずむ・・・頭の中をいろいろなことがグルグルまわる私。しかし、うちにはゴキブリ退治に使えそうなものは、何もない。こんなでかいのたたき潰すのは絶対に嫌だ〜!(小さくても嫌だけど(^^;...)

 で、やっと動けるようになった私は掃除機を用意するも、敵もそうそう同じところに長くはいない。で、忘れようと努力しながら、トレーニングを再開、しかし、気になって仕方ない。それで、おそるおそる掃除機構えて、敵が消えたあたりの荷物をどけてみる・・・けど、いない。ほっとしたような、恐ろしいような。で、また忘れる努力をしながら腹筋・・・と、目線が床の高さに近づいた時に机の下の暗がりに何か異物を捕らえる。

 「い・・・いた」敵は、机の下にいた。意味もなくそぉ〜っと動きながら掃除機を手にし、体勢を整え、一気に「やった!」吸い込んだ。で、これからどうすりゃいぃ〜の? 意味もなく、したばかりの掃除をまたしてみたりする。掃除機のスイッチを止めるのが怖い。で、結局、掃除機の吸い込み口をガムテープでグルグル巻きにして塞いだのでした。

 あのデカさは、どう考えても外から入ってきたもの。窓を開けてたからなぁ〜。で、上下に開閉するタイプの窓をよぉ〜く見たら、上の方に上がってしまって気付かなかった網戸があった。もちろん、あわてて閉める。

 そりゃ、世の中には不気味な生物はたくさんおりますが、大体はアマゾンとか砂漠とか、彼らの世界に住んでいて、そこに踏み込んでいく人間がよそ者なのですから、あまり文句を言う筋合いはないと思っております。しかし、ゴキブリだけは許せない! なんで、てめぇ〜ら他人の家に住むんだよ! 高い家賃払ってるんだから、勝手に住むな!

 みんなに「ゴキブリって、掃除機の中のゴミとか食って当分は生きてるんじゃない?」などと言われ、その後はとりあえずガムテープがまだしっかり留まっていることを確かめる毎日。「殺虫剤、片手に、掃除機開けた方が早い」「大きなビニール袋の中に、掃除機ごと入れて、中の袋を換えれば」などと言われながらも、時は無情に過ぎてゆく。

 金曜日の夜、ベッドの中でいろいろな思考が錯綜する。「中の袋を食い破っていたら、どうしよう」「掃除機つけた瞬間に、ゴキブリがモーターに巻き込まれて飛び散ったら、どうしよう」「まさか、ホースの中まで上がってきてないよな」「中で卵とか産んでたら・・・」

 運命の土曜日。私はどうしても、最低でも一週間に一回は掃除をしないと我慢できない。すごく悩み考え、でも大きなビニール袋もないし・・・で、まずバスタブに掃除機を持ち込む。そっとガムテープをはがしてゆき、最後の一層がとれる瞬間にスイッチを入れる。しばらく入れっぱなし。「これで、とりあえずホースの中にはいまい」。で、スイッチ入れたまま、ホースを外す。いくつか用意したビニール袋を吸い込む。「これで、うまくすればゴキブリは袋とビニールに挟まれて、動けまい」。袋の口に、またビニール袋を詰めて栓にする。おそるおそる、掃除機を開ける。「良かった、袋は破られていない」。で、ちょっとずつ、栓にしてる袋が外れないようにゴミ袋を取り出す。「やった!取り出し成功!」

 あとは、その袋をビニール袋で何重にもしばる。本当にこの中にゴキブリがいたのか、という一抹の不安を覚えながらも、袋を破って確かめる勇気もないままに、表通りのごみ箱にすかさず捨てる。はぁ〜。どうやら、案外あっさり死んでくれていたようだ。ホースにもいなくて、袋も破れていなかったんだから、ゴキブリは絶対に袋の中にいたハズと自分にいい聞かせる。

 ま、何にしてもゴキブリとの同居生活は一週間で終わって、良かった・・・。


 昔、日本でアパート暮らしをしていた頃、外から虫が入ってこないように網戸の周囲をガムテープで窓枠に固定し、わずかな隙間も塞いでおりました。風呂場に通気溝があるのを発見した時は、外から通気溝の入り口に網を貼りました。共同住宅だと、どうしようもないことも多いのですが、やっぱりゴキブリだけは許せない私でした。


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