2002.6.30の独り言

 「禁煙なんて簡単だ。私なんか、もう何十回もやっている」とか言ったのは、ヘミングウェイだったか(違ってたら超間抜けだな)。
(後に友人から、「そらマーク・トウェインだろ」と突っ込まれました・・・)

 前回、グリーンカード到着のことを書いた。ちょうどいいので、今回は「永住権と禁煙」のお話。

 冒頭の言葉通り、禁煙は簡単なんだけど、続けるのが困難なのである。吸い始めが若いほど、止めるのは難しいらしい。98年の正月から始めた禁煙については、このコーナーにも書いた。その前にもその後にも、私は何度も禁煙している。

 98年の禁煙話以来、格好悪いのでこの件に関して触れてこなかったのだが・・・。はい、はっきり言ってこの時も(そこそこ長く続いたものの)見事に挫折しました。ただ、この時以来、タバコを持ち歩くことはほとんどなくなった。

 マンハッタンでは、老若男女人種問わず、本当にどいつもこいつも歩きながらタバコを吸っている。さらに、こいつらのうち99%がタバコを投げ捨てる。基本的に建物内が禁煙なので、ビルの入り口には必ず灰皿が置いてある。10メートルも歩けば必ず灰皿があるのに、投げ捨てる。さらにビルの入り口の灰皿の前でじっと立ってタバコを吸っている連中まで、かなりの割合でタバコを投げ捨てる。目の前に灰皿があっても、時には目の前で路上の吸い殻を掃除をしている人がいるのに、それでも投げ捨てる。ほんっとーに理解に苦しむ。建物の入り口から、人通りの多い歩道を横切って車道まで、火の点いたままのタバコをわざわざ勢いよく投げたヤツを目撃したこともある。マジで延髄斬り食らわしたろか、と思った。

 こんな連中と一緒にされてたまるか!という思いと、しばらく禁煙した後では人前で吸いにくいという思いが重なり、98年後半からは自分の部屋や車の中ぐらいでしか吸わなくなっていた。それでも1日1箱ペースで吸ってたし、特に締め切り前にパソコンに向かっている時など、そらもうガシガシ吸っていた。

 カリフォルニアは全米一、健康志向が強い州だ。何年も前から、公共の場所や建物内は言うに及ばず、バーやカジノまで禁煙である。禁煙になる前でも、バーでタバコを吸っていると「喫煙は日本人の国民的習慣だからね」と、よく(主に白人に)嫌みを言われた。ロサンゼルスは、そんな土地柄だ。2000年に西海岸に戻って来てからも、基本的に自分の家だけで吸っていた。

 2000年12月22日。私はマンハッタンにいた。ニューヨークの移民局で、永住権所持者であることを証明するスタンプをパスポートに押してもらうためだ。

 夜行便で到着した早朝のニューヨーク。郊外の道路にはうっすらと雪が積もっていた。もちろん私は、期待と緊張で寒さなんかまったく感じなかった。無事にスタンプをもらい、移民局を後にする。最高のクリスマスプレゼントをもらい、自然と顔がほころぶ。小雪がちらつくローアー・マンハッタンを、おそらく私は踊るように軽い足取りで歩いていた。

 時間がないので、その日の夕方にはロサンゼルスに戻る飛行機に乗らねばならない。空港行きのバスが出るポートオーソリティの建物に入る前に、一服しようとタバコに火を付けた。降りしきる雪を眺めながら、とっても嬉しくて暖かい気持ちで灰皿の傍らに立ち、実にうまいタバコを深く吸っていた。

 その辺に多いホームレスが入れ替わり立ち替わり、しけもくを求めて灰皿をさぐっていく。何人目のホームレスが来た時だろう? 私はいきなりダウンジャケットの内ポケットに右手を突っ込み、15本くらい入ったマルボロのパッケージを取り出し、彼に差し出していた。

 自分でもなんであんな行動に出たのか、恐らく永遠にわからない。本当にとっさの、反射的な行動だった。

 差し出した私の右手を見ながら、驚いて固まっているホームレス。私は吸いかけの1本を持った左手を軽く上げ、「これを私の最後のタバコにする」と宣言した。

 ホームレスは、半分以上入っているマルボロのパックをうれしそうに受け取って去って行った。隣でタバコを吸っていたおばちゃんが、えらくウケて笑っていた。

 実に格好いい止め方である。あまりに格好良過ぎるから、挫折したらとてつもなくみっともない。だからしばらくは誰にも言えなかった。1年ほど経った頃から、親しい友人に酒の肴として語るようになった。もう1年半も経ったから、ここに書いても大丈夫だろう。多分・・・

 ちょうど永住権が取れ、ちょうど21世紀になり、自分の気持ちの区切りと時代の区切りが重なって、本当にタイミングが良かったのだと思う。私は自分で死ぬまで禁煙できないと思っていたのに、あんなにあっさり止めてしまったなんて、本当に驚きである。

 なにしろ20年以上喫煙していたから、タバコを吸う前の体がどうだったかなんて少しも覚えていない(もっとも、覚えていたところで意味ないか。タバコ吸おうが吸うまいが、小中学生と30代後半の体を比べられないわな)。運動中の動機や息切れをはじめ、悪いことはすべてタバコのせいにしていた。タバコさえ止めれば、永遠に走り続けられるような気がしていた。タバコを止めても心臓もどきどきすれば息も上がる。ずっと泳ぎ続けられるわけでも自転車こぎ続けられるわけでもないとわかり、実はかなりショックである・・・


 前回書いた通り、ハワイ帰りの飛行機内が非常に寒かったせいで体調を崩した。風邪かと思ったのだが、どうやら単に喉だか気管支だかをやられたようである。熱はほとんど出ず、鼻水に移行もせず、ただただ喉が痛くてただただ咳き込んだ。

 ちなみに、これはタバコのせいではないとわかっている。私は幼い頃から喉は弱かった。小学校低学年の頃は、冬の間中、咳き込んでいた。

 今回は結局10日もの間、夜な夜な咳き込み、あまり眠れなかった。半分眠っていても自分が咳き込んでること自覚していたり、咳き込み過ぎて(?)汗だくになって夜中にTシャツを着替えたことまであった・・・

 夜眠れないものは仕方がないので、昼寝をして体力補給。この辺、フリーランスは強い、というか、サラリーマンだったら消耗して倒れてたかも。

 締め切り前には早寝なんてはなから諦め、そのつもりでたっぷり昼寝もし、どうせ眠れないんだから夜はパソコンに向かって仕事。そして、夜遅くなると起きていても(ベッドに入らなくても)昼間よりは咳が出る、という何の役にも立たない事実を発見した。

 なんで夜になると咳き込むんだろう・・・???


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