「医者と薬局」

 多くの方はご存じだと思うが、アメリカでは医薬分業が進んでいる。医者にかかった際、薬は処方箋をもらい、薬局に行って買う。

 日本では風邪をひいた、などと医者に行くと、大抵は注射をしてくれたり喉に薬を塗ってくれたり、何かしら即効性がありそうなことをしてくれる。その上で、薬もくれる。ところが、私の知る限り、風邪でこちらの医者にかかっても、まず何もしてくれない。問診票に記入し、体重・血圧・熱は必ず測り、場合によっては聴診・視診。そして、医者は「何も治療をせずに」処方箋を書く。同僚が風邪をひいた時、翌日の仕事がどうしても休めなかった。彼は片っ端から電話をかけて注射をしてくれる医者を探していたが、結局みつからなかったようだ。

 この処方箋というのが曲者である。大体、具合が悪いから医者に行っているのに、さらにだるい体を引きずって薬局に行かねばならない。車があればまだマシだ。しかし、車で移動できないマンハッタンの場合は最悪である。

 ある時、咳が止まらなくなり、ニューヨークで初めて医者にかかる羽目になった。自宅の近くの医者を電話帳で探し、お決まりの検診にレントゲンもついて「結核とか肺炎ではないので、安心してください」と言われ、例によって処方箋をもらって病院を出た。

 特に深く考えずに帰り道の薬局へ。処方箋窓口の列に並び、やっと順番が来たと思ったら「7時に取りに来て」(その時、4時半)。「ロスでは最高に待たされても20分だった」と思いながらも、仕方なく一度帰宅した。そのまま寝たいところ、我慢して7時までじっと待ち、再度、薬局へ。さらに長くなった列に並び、やっと順番が来たと思ったら「座って待ってて」・・・。
んだよ、てめぇ〜、これから調合してんじゃねぇ〜か! 何のために3時間も猶予をやったと思ってるんだ!

 私はまだマシかもしれない。周りに並んでいる人で、「明日、来て」と言われている人も結構いる。それも、1回目に来て「明日」ならまだ許せる。私の前に並んでいた兄ちゃんは、私同様、昼間に1回来て、夜取りに来いと言われて再度来たらしいのに、今度は「明日」と言われている。どうして、みな怒らないのかホントに不思議だ。この薬局は決して怪しい薬局ではなく、大手のチェーンである。きっと他も同じようなものだから、皆この店にも列を作っているのだろう。「はぁ〜、ニューヨークってとこは・・・」。地下鉄で待つことに慣らされているだけに、皆さん辛抱強いこと。

 ものは薬である、くすり。どっかしら具合が悪いから来てるんだろ。それが「明日」なんて、それまでに熱が上がったらどうするんだよ。私は待ってる間に、しっかりまた咳が止まらなくなった(; ;...。

 さらにこの薬局は、「ここはペット・ショップか?!」と思うほど犬だらけだった。うちの近所は高級住宅街と言われるだけあり(?)、犬の散歩をしている人が非常に多い。私は犬は大好きだが、列に並んでいる間、巨大な薄汚れた長毛の黒犬が放し飼い状態で近くをうろうろしているのには、さすがに閉口。見てるだけで咳が出そう。

勘弁してくれ〜!

(原文:97/6/23 加筆訂正:98/11)