「公共交通機関と時間の無駄」

 一般に、渋滞回避だけでなく環境保護や省エネルギーの観点からも、公共の交通機関を使えと言われる。東京などの場合、確かに公共の交通手段が非常に発達していて、車がなくても困ることは希だ。ロスでも、車社会から公共の交通手段への移行に(一応)努力しているようだ。ニューヨークは恐らく、アメリカで一番、公共交通手段が充実していると思うが、車生活をやめてから私は非常なストレスに陥っている。

 前にも書いた地下鉄は本当に最悪。朝の出勤時でもしょっちゅう止まるし、突然、乗っていた地下鉄が他の路線になることもある。通勤時に新宿に行こうと京王線に乗っていたら、突然「この電車は井の頭線になって渋谷に行きます」と言われるようなものだ。一度など、運転手と車掌もどうしていいのか戸惑っていたようで「この電車、どこまで行くの?」「○X線の終点まで」なんて会話が車内アナウンスで流れていた。停まるはずの駅は勝手にとばすし、時刻表がないから運が悪いとなかなか来ない。いつものホームに違う路線の電車が入ってきて、間違えて乗ってひどい目に遭ったり。

 バスはどうか。かつて住んでいたクイーンズ地区からマンハッタンまではナント、朝などバスの方が早く着く。一体、どんな地下鉄なんだ?! しかし、マンハッタンに入ってからの渋滞がひどすぎて、結局同じ事になる。前の信号が黄色なのにどいつもこいつも突っ込んでゆくために渋滞が悪化する。バスまで突っ込んでいいく。信号が変わっても、バスが交差する道をふさいでいるために全く動かないという光景をよく目にする。ごく一部の運転手を除いて、ドライバーはどいつもこいつも、ほんっとぉ〜にバカ!

 私にとって、アメリカで公共の交通手段を使うことは、非常な時間の無駄とストレスを意味する。来ない地下鉄やバスを待ち、必要ないはずの乗り換えや遠回りを余儀なくされる。ついでに、コートを着るような季節でも地下鉄の車内は冷房がんがん。窓を開ければ済むだろうが! これは地下鉄に限らないが、ニューヨークの人間は冷房か暖房か、絶対にどちらかを入れなくてはならないと思っているらしい。

 結局、多くの人はタクシーを使うことになるが、これまたすごいストレス。ほとんどの運ちゃんは非常に愛想が悪く返事もしない。やはりちょっと恐いので、お客なのに運ちゃんの顔色を伺わなくてはいけない。しかも、マンハッタンの川向こうのクイーンズに行くには、夜などやっとつかまえたタクシーに「クイーンズまで行ってくれる?」と何故かお伺いまでたてなくてはならない。もちろん、断られることもよくある。この点は、近距離だと嫌な顔をされる東京のタクシーと逆だ。

 これが、クイーンズからJFK国際空港になると話が変わる。距離的には近いが直接行ける交通手段がなく、車がない場合はマンハッタン経由でないとたどり着けない。行きは近所のタクシーを呼べばいい。しかし、帰りにタクシー乗り場に普通に並んで「クイーンズまで」と言うと、今度は近いために非常に嫌な顔をされる。どうやら空港にタクシーの乗り入れ制限があり、入れる回数か時間が決まっており、近くまで行ってすぐに戻ってくる訳にはいかないという事情があるらしい。マンハッタンまで客を乗せて行き、しばらくマンハッタン内で稼いでから戻るのが、彼らにとってベストのようだ。

 アメリカっていうところは、やっぱり自分の車で動きまわるようにできている。

(原文:96/3 加筆訂正:98/10)