「最初は腹が立ちました」

 私が一番つらかったのは渡米3ヶ月後から半年後くらいであった。最初の3ヶ月は全てが新鮮で楽しく、あっという間に過ぎていった。しかし、3ヶ月を過ぎる頃から、ストレスが溜まり始めた。

 何だかいつもバカにされてるような気がする。私は日本人でマイノリティである上、アメリカでは歳より若く見られて子ども扱い。おまけにアメリカ人は、全世界の人が英語をしゃべるのが当然だと思っている。英語が下手だというだけですご〜くバカにする。確かにアメリカにいる以上、ある程度は仕方ないが「テメーら、日本に来たって英語で通すじゃねえか!」。

 さらに、耳が悪いのか頭が悪いのが、全然わかろうという努力をしない。ちょっと発音が違うと全く理解しない。レストランで会計の時に言ってるんだから、いくら私の発音が「チップ」だったからって「ティップ」だってことぐらいわかるだろ! あのアメリカ人の思いっきしバカにしたような「はあ〜っ?」という聞き返しを聞くと本当に腹が立つ(日本人の友人は皆、同意していた)。

「2カ国語話せるのはバイリンガル、3カ国語はトリリンガル、じゃあ1カ国語しか話せない人のこと何て言うか知ってる?」「アメリカンだよ」という黒人の友人のジョークを聞いた時は、日頃の恨みもあって非常にウケた(大体、傲慢なのは白人に多い)。

 この国の公共機関(に限らずだが)にはサービスっつーものがないから、アメリカ人でも郵便局や免許試験場の受付では腹が立つことが多いらしい。ましてや私などにとっては・・・。日頃の積もり積もった憎しみが、渡米半年後くらいに免許試験場の窓口で爆発した。

 初めて英語で喧嘩して、態度の(体も)デカイ白人のババアに勝った♪ 私のあまりの剣幕に押され、本当は通らないハズの視力検査まで通ってしまった。その日は嬉しさのあまり、何で怒ったのかも忘れてしまった。それをきっかけに次第にストレスも溜まらなくなっていった。

 私の態度はどんどんデカくなり、一人悔し涙を流した日々も今は遠く、日本人であるために腹の立つことは、かなり少なくなった。

(原文:95/11 加筆訂正:98/9)