☆ A TORINOI LO(ニーチェの馬/THE TURIN HORSE)

監督:タル・ベーラ
出演:デルジ・ヤーノシュ
   ボーク・エリカ

 モノクロだけど、「旅芸人の記録」時代の作品かと思いきや、実は2011年と意外に新しい作品。それにしても、154分(作品の長さ)も費やして、一体全体何が言いたいのか・・・???

 とにかく暗い。とにかく難解。哲学者でもなんでもない私には、どうしてこういうタイトルなのかも理解できない。冒頭で語られるニーチェの逸話と全然関係ないし。

 寒々とした荒涼たる大地に、昼も夜もなく吹き荒れる暴風。見ているだけで皮膚がゴワゴワに乾燥してこわばり、毛穴という毛穴が細かい土埃で詰まって皮膚呼吸ができなくなるような不快な情景が2時間半延々と続く。こんなところで生きるぐらいなら死んだ方がマシ。そもそもなんのために、他人との接触すらほとんどないこんなところに生きているのか。一生、風呂に入ることがなさそうなこういう生活は、(たとえドキュメンタリー作品でも)見ているだけでこちらまで汚れてきそうで生理的に受け付けない。

 それでも頑張って見続けてみるが、なんというか演出が実に中途半端というか、貧しさを描いているはずなのに、親子がちっとも飢えているように見えない。一日1回ジャガイモ1個だけの食事で空腹なはずなのに、食に対する執着がまったく感じられないばかりか、その貴重なジャガイモすら食べ残している(ようにしか見えない)のがまったくもって理解不能。すでに生きる気力を失っていたにしても、よほどの重病でもない限り、イヤでも腹は減るものである。貴重なはずなのに、薪だって油だってちっとも節約しているように見えない。水だって、なくなるまでは贅沢に使い放題。普通だったら、血がにじむような悲惨な状況描写をしてようやく、明日をも知れぬ極貧を表現するものだろう。貴重な食べ物すら粗末に粗末にするようなやつは、とっととくたばってしまえ、と思われても仕方がない撮り方である。あまりに理解不能なのでネットで他の人の感想を読んでみたところ「こいつらは隠れてステーキを食っているに違いない」「食べ物を粗末にした罰が当たって水道も電気もガスも止められ…」などとあって、かなり的を射ているなと笑ってしまった。「これはSFだ」というコメントには、もっと笑った。確かにそうかも・・・

 そのほかにも、気になるところが山ほど。馬にやる水をどうして常に飲める状態にしておかないのか、貴重な(はずの)バケツを井戸端に置き去りにするな、ドアを開けっ放して井戸に向かったはずなのに戻ってくるとどうして閉まっているのか、縫い物はいいけど最後に糸の端を結びもしないで引きちぎって終わりって何じゃそりゃ?! そもそも言われなかったら彼らは農民に見えないし、最初父親がどこかへ出かけていたのはどこへ何をしに行っていたのか、翌日はどこへ行こうとしたのかも不明。一切の説明を省いているくせに、ちっとも筋が通らない演出ばかりで、しつこいようだがまったくもって意味不明。長回しや、静止が多い撮影方法そのものにけちをつける気はないが、言いたい(と思われる)ことと実際の表現の整合性がまったくない。

 そもそもどうしてこの映画を見たいリストに入れたのか、かなり昔のことなので覚えていないが、なにやら概して(特に業界からの)評価は高いようなのでほめている映画評でも読んだのだろう。しかし、私は全然、感心しなかったねぇ。風邪のせいで「Expendables 3」を観に行けなかった腹いせ(???)に見るにしては、対極の作品であるな。

 って、これだけあれこれ調べて、こんなに長い映画評を書いてる時点で、すでに自分も監督の術中にハマってる・・・???

鑑賞日:2014年9月9日
製作:2011年・ハンガリー/フランス/スイス/ドイツ


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