監督:若松孝二
出演:寺島しのぶ
大西信満
吉澤健
メディアでは「四肢を失って戦場から戻ってきた夫をもてあます妻」というような、非常に個人的な話を描いた映画であるかのように紹介されているが、実際はかなり強烈な反戦映画だった。主人公が戦場で犯した犯罪、さらには戦争というもの自体の犯罪性を、「お国のため」だとか天皇だとかに対する強烈な皮肉を、見る物にぐいぐいと突きつけてくる。
エンディングの元ちとせの歌を聴いていると、喉の奥につっかえた塊がどんどん大きくなっていくような気分になる。実のところ、私は奄美大島系の歌手のあの独特の「こぶし」が苦手で元ちとせも普段はとても聴けないのだが、このエンディングは「魂の歌声」としか言いようがなくて、圧倒的な悲しみの前にただただ耳を澄ませて涙をこらえるしかなかった。アメリカをはじめとする軍事大国のお偉方に、戦争がないと金が回らなくて困るアメリカという国の大統領に、戦争でぼろもうけしている軍産複合体の経営陣やそこに群がる政治家たちに、聴かせてやりたい・・・
世間では寺島しのぶの熱演ばかりが評価されているようだが、大西信満もどうしてなかなか強烈な演技を見せている。あまり見ない役者だけれど、目がすごい。しかも片目は半分つぶれかけているのに、それでも強烈に目で演技している。夫婦の主従関係が徐々に逆転して、妻に「犯される」ようになって初めて自らの罪を知り恐怖におののく様を演じて、実に見事である。
ところで、疎開してきた学生とおぼしき若者たちがいつも早稲田大学校歌「都の西北」を、しかも「早稲田」という部分は巧みに避けながら歌っているのには、なにか深い意味があるのかな・・・?
鑑賞日:2011年5月16日
製作:2010年・日本