□ HANA-BI

監督:北野武
出演:北野武
   岸本加世子

 私はタケシが好きだ。その昔、漫才ブームと言われた時代があった。元々あまりテレビを見ない上に、お笑い番組など死んでも見ない私は、ツービートもB&Bも知らなかった。しかし、確かレコード大賞だったかのゲストにタケシが出ていたのだ。それが、名前だけは知っていたタケシを初めて見た瞬間だった。その瞬間からタケシのファンだ。と言っても、彼が出ているお笑い(バラエティー?)番組は一度も見たことがない。ツービートって言うくらいだから、もう一人「ビートなんとか」さんがいたのかもしれないが、それすら知らない。ただ、タケシの醸し出す独特の雰囲気が無条件に好きだ。あれから、どのくらい経ったのだろう。15年? もっとか? 彼独特の雰囲気は、今も全く変わらない。確か、どこぞの出版社になぐり込みをかけたこともあったと記憶している。そういうところも(宅八郎にも通じるが(^^ゞ...)大好きだ。

 タケシの映画も全て大好きだ。彼の映画には、彼の時間が流れている。穏やかな、ゆったりとした、そして静かに暴力的な物語が目の前を心地よく流れてゆく。これが好きか嫌いかは各人の評価が別れるだろう。しかし私は、「彼の時間」の一部になれる瞬間が大好きだ。非現実的? 別にリアリティを求めて映画を観に行く訳じゃない。しばし現世を離れた空間に生きられる、だから映画が好きなのだ。タケシの空間が、私はたまらなく好きだ。彼の描く「非現実」は、私にとって限りなく心地よい。

 好きだと言いながら、タケシの映画を劇場で観たのは、これが初めてだ。それがニューヨークだった、というのも何だか可笑しなものだ。

 多くを語らない展開。象徴的な画面。美しい景色。この作品にも貫かれている、ゆっくりと流れる時間。淡々とした暴力シーン。そして、異様なまでの存在感を示す俳優としての彼自身。痛快なまでに非現実的な、彼が演じる「西」。その全てが愛おしい。

 小さな劇場とは言え、映画多産国アメリカにあって、かなりのロング・ラン上映だ。最後に縦書き日本語の字幕が流れる。劇場が明るくなってから席を立つ。かなりの非日本人の観客が、同じように最後まで席を立たずに、きっと意味不明の記号が流れるスクリーンを見つめていた。

 映画に登場した絵画もタケシが描いたという。彼が非常に頭が良いことは周知の事実だが、何と多才なことか。難を言えば、岸本加世子にはもうちょっと痩せて、病的な感じを演出して欲しかったか・・・。

鑑賞日:1998年4月29日
映画館:FILM FORUM
    ソーホー


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